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二人の影 の表紙

二人の影

よはく

2026/1/30

1

駅前の喫茶店の扉を押した瞬間、冷えた空気が頬に触れた。夕方の光が低く差し込み、窓際に座る海斗がぼんやり光に縁取られて見えた。 「……来たんだね」 彼は小さく手を上げた。画面越しで聞き慣れた声と同じなのに、少しだけ硬さが混じっている。 向かいに座ると、彼の指がカップをまわす軌跡ばかり目についてしまう。細い輪をなぞるように何度も動く。そのたび、ざらついた不安が胸の内側を擦った。 「駅、迷わなかった?」 海斗はそう言いながら、視線を逸らす。けれど、ほんの一瞬だけ、まるで何かを確かめるみたいにこちらを射抜く。その刹那を、私は見なかったふりをした。気づいてはいけないものを覗いてしまった気がして、指先が妙に冷たくなる。 会話は途切れがちで、店内のスプーンが当たる音ばかりが耳に残る。外では風が止まり、ガラスが薄く震えた。 「思ってたより…静かな店だね」 彼がつぶやく。 私はうなずいたが、言葉は喉の奥に貼りついたままだった。 テーブルの端に置かれた、彼のスマホの通知ランプがときおり光る。淡い色なのに、なぜか視線を引き寄せる。そこに触れてはいけない気配だけが、じわりと広がっていく。 海斗がふと顔を上げた。 「このあと、少し歩かない?」 その眼差しの奥に、さっきの光と同じ揺らぎがあった気がして、胸の奥で言葉にならないざわめきがひとつ動いた。

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初めてオフラインで会う2人

2

店を出ると、夕陽の残りが歩道に薄く伸びていた。空気は思ったより温かく、けれど海斗と並ぶ距離だけが妙に測れなかった。初めて会う人の歩幅が、こんなに読めないものだと知る。 「その…本当に、初めてなんだよね。こういうの」 海斗が前を見たまま言った。 「うん。私も」 声が少し浮いて、自分のものじゃないみたいだった。 信号待ちのあいだ、彼の横顔が赤に照らされる。輪郭が崩れそうに見えて、知らない人の影が一瞬だけ重なった。じっと見ると気づかれてしまいそうで、靴先ばかり見つめる。 「思ってたより、喋れなかったね」 海斗がかすかに笑った。 「たぶん…実物のあなたが、画面の人と違ってて」 言ったあと、胸の奥が小さく跳ねた。 「どんなふうに?」 海斗は歩き出しながら訊く。その問いは軽いのに、答える場所が見つからない。浮遊するような沈黙が二人の間を撫でていく。 並木の影が風で揺れた。葉のこすれる音が、言い損ねた言葉をさらっていく。 そのとき、少し先のベンチに誰かの忘れた紙袋が見えた。海斗が足を止める。 「…あれ、さっきはなかったよね」 彼の視線の先に、薄い不安のようなものが揺れた。そこで私は、次の一歩を決めかねたまま立ち尽くした。

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初対面であることを明確に

3

海斗は紙袋の前で立ち止まり、指先で空気を探るように動かした。拾うか迷っているのが伝わる。私は少し離れた場所で、その背中の揺れだけを追っていた。 「開けたりは…しないほうがいいよな」 海斗が振り返る。声は穏やかだけど、目だけが落ち着かない。 「うん。誰か、戻ってくるかも」 答えながら、自分がなぜこんなに急いで言ってしまったのか分からなかった。 風が通って、袋の口がかすかに震えた。中身は軽いらしく、空洞が擦れるような音がした。その音が、海斗と私のあいだの余白に入り込んで、どちらの気配なのか分からなくなる。 「…なんか、妙だね」 海斗はベンチに腰かけ、靴先で地面を押した。私は隣に座るべきか迷ったが、結局半歩だけ近づいて立ったままでいた。距離の取り方がまだ掴めない。 「さっきまで誰もいなかったよな」 「うん。でも…たまたま、じゃない?」 言いながら、自分の声が薄く割れて聞こえた。 海斗はしばらく紙袋を見つめ、それから私を一度だけ見上げた。 その視線は一瞬なのに、胸の奥の固い部分に触れてくる。 「もう少し歩こうか」 彼がゆっくり立ち上がる。その動きにつられて歩き出しながら、置き去りにされた袋だけが、夕暮れの色に沈んで見えた。 けれど振り返ったとき、さっきより人影が通りに増えていて、その中に見覚えのない細い背中が混じった気がした。次の瞬間には、もう見失っていた。

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4

歩道の脇を流れる車の音が、不規則に耳へ滲んでいった。並んで歩きながらも、言葉はどこか遠くに置き忘れたままだった。 そのとき、海斗のポケットで短い震えが起きた。金属の響きが混ざった通知音が、薄曇りの空気を切る。 彼は歩みを止めず、ちらりと画面をのぞき込んだ。ほんの一秒。けれど、その瞬間だけ表情が沈んだ。眉の端がわずかに歪むのを、私は見てしまった。 「大丈夫?」 自分でも驚くほど速く声が出た。 海斗はすぐに顔を上げる。 「うん、平気。仕事の…なんでもないやつ」 言い方がきれいすぎて、余計に奥が読めなくなる。 「仕事なら…出たほうが」 そう続けると、海斗は首を振った。 「今じゃなくていいよ。歩いてるほうが、なんか楽だし」 笑ったはずなのに、口の端が固い。風が頬を通り過ぎ、温度差で皮膚が細く波立つ。 彼はスマホをポケットに戻し、視線を前へ向けたまま言った。 「ごめん、変な空気にしたね」 「そんなこと…」 否定しようとして、言葉が途中でほどけた。喉の奥に、形にならない粒のようなものが引っかかる。 海斗の肩がわずかに落ちる。歩幅は変わらないのに、背中だけが少し遠く感じられた。 信号の青が点滅を始める。私たちは小走りに横断歩道へ向かった。 その途中、さっき見失った細い背中に似た影が、建物の隙間へ滑り込むのが見えた気がした。 足が半歩だけ止まりかける。けれど名前も知らない影に呼び止められる理由なんてない。 私は何も言わず、海斗の横へ戻った。彼の横顔には、さっきの渋い色がまだ薄く残っていた。

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海斗のスマホが鳴り、彼が一瞬だけ見せた渋い表情に迷う

5

横断歩道を渡りきると、風が弱まり、街のざわめきが布の裏側みたいに遠のいた。歩道脇の植え込みから、湿った土の匂いがゆっくり立ち上る。どこにも急がなくていい時間だけが、私たちの足元にまとわりついていた。 「さっきのさ」 海斗が少しだけ声を落とした。 「…変じゃなかった?俺」 言い終えたあと、袖口をつまむように指が動く。 「変じゃないよ」 答えながら、歩く速さを彼に合わせた。気づかれないよう、ほんの少しだけ近づく。肩が触れるほどじゃない。けれど離れもしない距離。 海斗は前を見たまま、小さく息を飲んだ気がした。 「なんか、変なとこ見せた気がしてさ。実際会うと…思ってたより、誤魔化せないんだなって」 「誤魔化さなくていいよ」 自分でも驚くほど素直に出た声に、足元の白線がかすかに揺れた。 海斗が横目でこちらを見る。ほんの一瞬なのに、視線の温度が肌に触れたように感じて、指先が軽くしびれる。 「じゃあ…ちょっと頼ってもいい?」 その言い方は冗談みたいで、でも芯がどこか不安定だった。 「うん。できることなら」 そう言うと、海斗は目の端だけで笑った。形にならない影がその笑みの奥にまだ残っているのが分かる。けれどそれを確かめる勇気も、追い払う理由もなかった。 並ぶ歩幅が少しだけ揃う。通り過ぎる車の風が裾を揺らし、二人の影をひとつに重ねたり離したりする。 ふと、前方の明かりの下に、さっきの細い背中に似た影が立ち止まった気がした。目を凝らすと、もう誰もいない。 海斗が小さく首をかしげる。 「どうしたの?」 「ううん、なんでも…」 言いかけて、言葉が喉でほどける。 代わりに、歩幅をまた半歩だけ近づけた。海斗は気づいたかどうか分からない。けれど彼の指先が、風に触れたみたいに微かに動いた。

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二人の距離を縮めて

6

街灯の光が途切れ、少し暗い並木道に入った。アスファルトに落ちた葉が踏まれるたび、乾いた音が足裏から静かに伝わってくる。その間を歩きながら、海斗の呼吸がいつもより深いことに気づいた。 「さっきさ」 海斗が前を向いたまま言った。 「頼るって言ったけど…どう言えばいいのか分かんなくて」 言葉の端がかすかに揺れる。 「言わなくてもいいよ」 そう返すと、海斗は歩みを緩めた。足元を見つめる視線が、何かを探すみたいに揺れ続けている。 「でもさ、言わなかったら…また誤魔化すことになるだろ」 低く落ちた声に、私の胸の奥で何かが張り詰めた。海斗は続けようとして、唇を結んだまま少し黙った。 通りの向こうで自転車のベルが鳴り、その音だけがやけに澄んでいた。 「…変だよな、俺。やたら気にしてさ」 海斗は顔を上げた。目に沈んでいた影が少しだけ薄くなっている気がした。 「でも、変って言われたくないとかじゃなくて…うまく言えない」 言い終えると、彼は片方の手をポケットから出し、指先を空気の中で小さく折りたたんだ。掴み損ねた言葉の形を確かめるように。 私はその仕草を見て、足を止めそうになった。 「言わなくても…伝わってるところ、あると思う」 声に出した瞬間、息が少し詰まった。 海斗は驚いたように瞬きをした。 「…ほんとに?」 「うん。たぶん、だけど」 彼は歩道の端に寄り、街灯の光を背中に受けた。その影が長く伸びて、私の足元に触れる。 「じゃあ…もう少し歩いてもいい?」 問いは穏やかで、どこか不安が混じっていた。 うなずくと、海斗はほっとしたように息を吐いた。その音が夜気に溶け、さっきまで見えなかった細い路地の奥が急に広がって見えた。 その路地の入口に、誰かの影が一瞬揺れたように思えた。 けれど目を向けたときには、もう何も残っていなかった。

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7

路地を抜けると、広場の端に小さな噴水があった。水音は薄く、夜気の中でほどけながら漂っていた。海斗はそこで足を止め、指先で鞄の紐をつまんだまま動かなくなる。 「…ひとつ、聞いていい?」 声は低いのに、どこか急いていた。 「うん」 答えると、海斗は短く息を吸った。目が水面の揺れに引かれるように落ちていく。 「このあと…ちょっとだけ時間、もらっていい?」 言ったあと、彼は続けようとして言葉を噛んだ。 「仕事じゃなくて。帰る前に、はっきりさせたいことがあってさ。でも…一緒にいると決めたのは俺なのに、巻き込むのは違う気もして」 噴水のしぶきが足首に触れ、冷たさがじんわり広がった。 決めるのは私のほうなのだ、と気づく。ここで頷けば、彼が抱えている何かに半歩踏み込むことになる。拒めば、今の薄い繋がりはそっと閉じるのかもしれない。 海斗は視線を上げた。 「無理なら言って。ほんとに、どっちでもいいから」 表情は静かなのに、肩だけがわずかに固まっていた。 返事を飲み込みかけた瞬間、背後の並木で枝が落ちる音がした。振り返ると誰もいない。けれど、さっきからまとわりつく気配がまた胸の裏側でうごめく。 私は海斗の横顔に視線を戻した。 「…少しなら、大丈夫」 そう言うと、海斗の指が鞄の紐から離れ、空中で小さく揺れた。 「そっか。ありがとう」 その一言が、噴水より静かに響いた。 どこへ向かうのか、彼はまだ言わない。 けれど、歩き出した足音が、いつもより慎重に地面を探しているように聞こえた。

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大切な決断を迫られる瞬間を入れて。

8

広場を離れると、風が少し起きて、遠くのビルのガラスが低く鳴った。海斗は歩道の縁をなぞるように歩き、言葉を探しては落としていくみたいだった。私はその気配に気づきながら、横に並ぶしかできなかった。 少し先の横断歩道の手前で、海斗が立ち止まった。 「…変なこと言うかもしれないけどさ」 声は細いのに、逃げ道を塞ぐような硬さがあった。 「さっきまで、ずっと迷ってた」 海斗は手を握ったり開いたりしながら続けた。 「俺、こういうの…誰かに言うつもりなかったんだけど。今日会って、歩いてたら…黙ってるほうが、なんか苦しくなって」 横顔が街灯に照らされ、輪郭がゆっくり揺れた。 「…君のこと、前から気になってた。会う前から。でも、言えば壊れる気がしてた」 呼吸が一瞬だけ乱れ、足元の白線が滲んで見えた。 返事を探そうとした瞬間、海斗が小さく笑った。 「ごめん。今、答えなくていいよ。言いたかっただけなんだ。ちゃんと聞かせたかった」 その言い方が、私の胸の奥にひっそり沈んでいく。 横断歩道の信号が青に変わり、音が乾いた空気を叩いた。 海斗は目を伏せたまま言った。 「続き…歩きながらでいい?」 うなずくと、彼の影が少しだけ近づいた。 踏み出した一歩の軽さが、どこへ向かうのかをまだ教えてくれなかった。

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思いがけない告白が二人の心を揺らす展開を。

9

横断歩道を渡りきると、風が止んだ。さっきまで揺れていた彼の影が、地面に薄く貼りつく。歩幅を合わせながら、それでも胸のどこかが足並みに追いつけず、息の間隔が微妙に乱れた。 海斗は前を向いたまま言う。 「さっきのは…ただ、言っておきたくて。困らせたよな」 声は落ち着いているのに、指先だけが落ち着かずポケットの縁を探っていた。 「困ってないよ」 そう言いながら歩くと、靴底が小石を踏んで軽い音を立てた。その音に紛れて、心の奥に沈んでいた言葉がふと浮かび上がる。 言わなきゃ、と気づいた。言わずに持ち帰るには、今日の景色があまりにも静かすぎた。 「海斗」 名前を呼ぶと、彼はゆっくりこちらを向いた。街灯の光が片側だけに当たり、表情が少し読みにくい。 「さっきの……聞けて、よかった」 そう言いながら、手が勝手に袖口をつまむ。 「私、今日ずっと…言えないまま帰るのが怖かった。ちゃんと会って歩いて、あなたがどんな人なのか少しずつ分かって、それで…そのまま黙って帰ったら、きっと後悔すると思って」 言いながら、喉の奥で小さなひびが入るような感覚がした。説明になっているか自信がない。けれど嘘ではない。 海斗はしばらく黙っていた。目だけがこちらを探るように揺れて、それがなぜか足元に重く落ちる。 「…じゃあ」 彼が小さく息を吸った。 「言ってくれて、よかったって思っていいの?」 その問いに、胸がつまる。 はっきり言うにはまだ一歩足りない。けれど隠すほどのものでもなくなっていた。 「うん。思っていい」 声はかすれ、けれど嘘にならなかった。 海斗は視線を落とし、口の端がほんのわずかに上がった。 「そっか…それ、すげえ嬉しい」 並んだ影が、さっきより近い位置で重なった。 けれど次の瞬間、通りの奥で誰かがこちらを見る気配がして振り返る。街灯の下には、ただ揺れる木の影しかない。 海斗が小さく首をかしげる。 「どうしたの?」 「ううん。なんでもない」 そう答えると、彼は歩き出した。 すれ違ったままの何かがまだ残っている。けれど、その隙間に指先ほどの温度がそっと入り込んだ気がした。

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私の気持ち伝える!

10

海斗が歩く速度をゆるめた。街灯の影が私たちの足元で重なり、また離れ、輪郭の薄い何かが揺れ戻っていく。あの細い背中の気配が、今夜ずっと私たちの後ろに貼りついていたように思えた。けれど振り返るたび、そこには何もいない。ただ風が通り過ぎ、枝の影がかすかに震えるだけだった。 「…ここでいいかな」 海斗が立ち止まったのは、広場へ戻る手前の小さな植え込みの前だった。緑の匂いが夜気に混じる。彼はポケットに手を入れたまま、まっすぐ前を見ていた。 「さっきから気になってることがあってさ」 言葉の出だしは平静なのに、呼吸が浅い。 「初めて会ったのに、ずっと誰かに見られてる感じがしてたんだ。変だよな。でも…自分の中の迷いが形になったみたいで、ずっと気持ちが落ち着かなくて」 あの影の正体は、彼の迷いでもあり、私の躊躇でもあったのかもしれない。そう思った瞬間、胸の奥でゆっくり硬さがほどけた。 海斗は続けた。 「多分さ…今日言ったこと、全部言うのが怖かった。言ったら終わる気がしてたんだ。壊れるほうの終わりね。でも、黙ってたらそれも同じだった気がする」 指先がポケットの中で動いた。小さく握られては、また開かれる気配が伝わる。 私は息を吸い、胸の奥に残っていたわだかまりをそっと押し出すように言った。 「影みたいだったよね。さっきから。たぶん…私もずっと、言えない気持ちを背負って歩いてた。あれが見えたのは、私のせいでもあると思う」 海斗が驚いたようにこちらを向く。 「君も…?」 「うん。でももういい。今は別に、何も見えない」 そう言うと、海斗はわずかに目を細めた。安堵にも戸惑いにも見える不思議な表情だった。 植え込みの影が風で揺れ、足元に散らばった葉が擦れ合う。その音が合図みたいに、海斗はポケットから手を出した。 その手は何も持っていなかった。ただ、空気の中で居場所を探すようにひらかれていた。 「…もしさ」 海斗はゆっくり言った。 「これからも、こうやって歩いたり、話したりしてくれるなら…もう少し自分のこと、ちゃんと見せられる気がする」 その言葉が落ち着いた場所に辿り着くまで、少し時間がかかった。けれど失われる気配はなかった。 「いいよ」 声が自然に出た。 「歩くくらいなら、いくらでも。あなたが迷ってる時は、ちょっとくらい待つよ」 海斗は目を伏せ、唇の端がわずかに震えた。 「…そっか。よかった」 ほんの数秒、私たちは並んで立ち尽くした。遠くの風がまた動き、どこかで枝が擦れた気配がした。でもその気配には、もう姿がなかった。あの細い影は、私たちの間からようやく抜け落ちていったのだと分かった。 「帰ろっか」 海斗が小さく言った。 「駅まで、送るよ」 歩き出した彼の隣に立つと、影が自然に重なった。もう離れても、輪郭が崩れずについてくる。 今夜のことを全部言葉にする必要はない。 歩幅が揃っていく、その静かな時間が答えを選んでくれているようだった。 少し夜が深まって、街の光が遠く揺れた。 その揺れが、これからのどこかへ続く道筋みたいに見えた。

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