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夕闇に揺れる星の約束 の表紙

夕闇に揺れる星の約束

よはく

ドラマチック2026/1/3

1

校庭に残った白いチョークの粉が、夕陽に溶けていくのをぼんやり眺めていた。卒業式の喧騒は遠のき、風だけが制服の袖を揺らしていた。 「……やっぱ、ここにいたんだな」 振り返ると、拓真が息を弾ませて立っていた。普段は落ち着いた声なのに、今日は少し荒れて聞こえる。胸の奥がざわついた。 「逃げたと思った?」わざと軽く言えば、彼は眉を寄せたまま近づいてくる。 「逃げるとかじゃない。ただ…」言葉を切り、手に持った黒い革袋を握り直した。「渡したいもんがあった」 革袋の口が、かすかに揺れた。中で何かが触れ合う微かな音がした。拓真は続けようとして、視線を落とす。 「今日、言っとかないと…後悔すんだよ」 胸の奥に冷たい波が走った。ずっと彼に聞きたかったことが、喉元までこみ上げる。なのに声にならない。 「ねぇ、拓真。私、あの…」 そこまで言って、校舎の方から誰かの名前を呼ぶ声が飛んできた。強い語気だった。聞き慣れた女子の声。 拓真の肩がわずかに跳ねる。革袋を握る手に、力がこもった。 「…悪い。また後で話す」 そう言って離れかけた彼の背中に、呼び止める言葉がうまく乗らなかった。 風が、置き去りになった校庭の匂いを運んでくる。 革袋の中身は何だったのか。 そして、あの声は誰だったのか。 足元の影が伸びていくのを見つめながら、胸の奥で言えなかった言葉が渦を巻いたまま動けずにいた。

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卒業式の日。溜まっていた想いぶつける2人の物語

2

校舎裏に続く渡り廊下で、足を止めた。照り返しの光が床に残った水跡を薄く照らし、その形が揺れて見えた。拓真の背中は、もう人の気配に溶けてしまっている。 「……なんで、あそこで来るかな」 独り言のつもりだったのに、声が少し掠れた。胸の奥で絡まったままの言葉が、喉に張りつく。 階段を降りようとしたとき、かすかな音がした。金属が擦れるような、細い響き。振り向くと、床に小さな銀のチャームが落ちていた。見覚えのある形だった。三年前、文化祭でふざけてお揃いにした、あの星。 指先で拾い上げると、冷たさが皮膚に残った。掌を閉じても、温度が戻らない。 「…拓真の、だよね」 言ってみて、胸がざわついた。たぶん、さっきの革袋の中身とつながっている。なのに確かめられない。 そのとき、背後で靴音が止まった。 「それ…拾ったの、あんた?」 振り返ると、紫苑が腕を組んで立っていた。呼びに来たのは彼女だったらしい。睫毛の影が険しい。 「拓真、探してた。あんたと一緒にいたって聞いたけど」 少し強い香水の匂いが、風に流れた。紫苑は一歩近づき、私の手元を見た。 「それ、渡して。持ってたら困るから」 言い方は淡々としているのに、視線だけが鋭い。私は思わず手を握り込んだ。 「…なんで困るの?」 問いかけると、紫苑の眉がわずかに動いた。答えずに唇を結ぶ。 言葉が落ちない沈黙のなか、夕陽の色だけが濃くなる。紫苑は視線をそらし、短く息を吐いた。 「…放課後、屋上に来て。話すことあるから」 そう告げて、踵を返した。制服の裾が揺れ、足音が遠ざかる。 握りしめた星の形が、手のひらに跡を残す。そこに込められた意味を、私はまだ知らないままだった。

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物語に最適な展開を自由に追加してください。

3

屋上へ向かう鉄扉の前で、指先が汗ばむのを感じた。階段を上る途中、三年前の光景がふいに蘇った。あの星のチャームを机に並べて、どっちが先に傷つけるかでくだらない言い合いをした。拓真は、勝てないと分かると妙に真剣な顔で「じゃあ守っとくわ」なんて言っていた。 扉を押すと、風の音が一気に肌に触れた。紫苑が手すりに寄りかかっていた。髪が揺れて、表情が読みにくい。 「来たんだ」振り向かずに言う声は、いつもより低い。 「話って、何?」 私が距離を測りながら立つと、紫苑は脇目もふらず続けた。 「拓真のこと…あんた、昔から気にしてたよね」 喉の奥が硬くなる。否定の言葉が浮かんで、すぐ沈んだ。 「別に…」そう言うと、紫苑がようやくこちらを向いた。強い視線なのに、どこか迷っている。 「チャーム、落としたの気づいてなかったみたい。あれ、渡されたら困るんだよ」 「なんで?」 紫苑は唇を噛んで、風に流される声で答えた。 「今日…拓真、告白するつもりだったから」 胸の奥がぎゅっと縮む。紫苑が続けた。 「相手、あんただと思ってた。でも…違うよ。あの袋の中身、私への指輪だから」 風が止まったように感じた。紫苑は視線を落とし、小さく息を吐いた。 「…だから、余計なことしないで」 彼女の声には勝ち誇った調子がなく、むしろ揺れていた。私は返事が見つからないまま、手の中の星を見つめた。 あの日の記憶が、別の意味を帯びて胸の奥に沈んでいく。どこかで何かがずれていた気がする。その理由に、指先がかすかに疼いた。

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過去の記憶が今に影響する伏線を置いて。

4

屋上を降りると、階段の影がいつもより濃く見えた。足音が吸い込まれるように静かで、胸の内側だけがざわついていた。 指輪、私じゃない。紫苑の言った言葉が、耳にこびりつく。 一段を踏み外しそうになったとき、後ろから声が落ちてきた。 「…さっきの、聞こえてた」 振り返ると、拓真が壁にもたれていた。息を整えるように前髪をかき上げ、私の手元を見た。 「それ、星…まだ持ってたんだ」 掌を開くと、金具の冷たさが残っていた。何も言えずにいると、拓真がゆっくり近づく。 「紫苑、なんか言ってたろ。…あいつ、早とちり多いんだよ」 声は落ち着いているのに、目だけが揺れていた。 「指輪、紫苑に渡すんでしょ?」 そう言うと、拓真の肩がわずかに沈んだ。 「違ぇよ。…あれ、お前のだ」 息がひとつ止まる。何か言おうとした瞬間、校庭の放送が鳴り、二人の間の空気を切り裂いた。 拓真が口を開きかける。けれど言葉は続かなかった。 卒業式の終わりを告げる音だけが、階段に落ちていった。 私は星を握り直した。今日だけは、もうごまかせない気がした。

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でも今日が、卒業式。自分に素直にならずにはいられない

5

階段を出て中庭へ向かったところで、空気が変わった気がした。春の匂いに混じって、強い香水の香りが近づいてくる。 「……やっぱり、ここにいた」 紫苑が植え込みの影から歩み出てきた。制服の袖を握りしめていて、普段の余裕はどこにもなかった。 「今の、全部聞いた」 声が震えていた。私と目が合うと、彼女は一瞬だけ視線をそらした。 「拓真…あんたに渡すつもりだったんだってね。指輪」 言葉の端がかすれている。強いふりをしても、追いついていない。 「紫苑…」 呼ぶと、彼女は首を横に振った。 「違うの。怒ってるとかじゃない。私…今日、言うつもりだったんだよ。ずっと前から決めてた」 息を吸い込む音が小さく聞こえた。 「卒業する前に、ちゃんと言わなきゃって。だから、後に引けないんだよ」 紫苑は近づき、私の胸元を見つめた。 「あんたが悪いんじゃない。でも…邪魔しないで、って言えない。だって私…今日で終わりにしたくないから」 彼女の指が軽く震えていた。言いたくない言葉を抜くように、唇が動く。 「だから、一個だけ頼む。拓真に、何も言わないで。今日だけでいいから」 押しつけじゃなく、懇願に近い声音だった。 返事が出なくて、喉の奥が痛くなった。 沈黙の間を、遠くのチャイムが割っていく。 紫苑は踵を返しながら、小さく言った。 「屋上…もう一回行ってくる。あんたのせいじゃないよ」 その背中は、強がりとも必死ともつかず、まっすぐに揺れていた。 置いていかれた私は、胸の奥がうまく整わないまま、星のチャームを指で押した。 次にどう動くべきか、まだ決められなかった。

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紫苑が乱入。彼女もまた今日思いを伝えなければならない。後に引けない。

6

中庭を離れ、校舎の影に入った途端、空気がひやりと肌に触れた。足音がやけに響く。紫苑の言葉がまだ胸に残っていて、呼吸の仕方がうまくつかめない。 曲がり角に差し掛かったとき、前から拓真が早足で来た。私を見るなり、眉を寄せる。 「さっき…紫苑といたよな」 声は低いのに、どこか急いていた。理由を探す前に、拓真が一歩近づく。 「屋上行くって言ってたけど…何の話した?」 その問いに、胸の奥がざわついた。言えない。言わないでほしいと頼まれたわけじゃなく、ただ今は、どれを選んでも何かを壊しそうで。 「別に。たいしたことじゃ…」 口にした瞬間、拓真の表情がわずかに硬くなる。 「ほんとか?」 短い言葉なのに、刺さる。心の奥がじくりと熱くなった。 「ほんとだよ。…信じられないの?」 意地でもないのに、強めの声になっていた。拓真が目をそらし、指先でバッグの紐を握りしめる。 「いや…なんか、嫌で」 その言い方が幼くて、胸の奥がきゅっと縮んだ。 「何が?」 問い返すと、拓真は視線を落としたまま、呟くように答えた。 「紫苑に先越されるの。…昔から、なんか嫌なんだよ」 呼吸が止まった気がした。理由を聞きたいのに、聞いたら戻れなくなる気もした。 沈黙を割るように、校舎の奥から誰かの笑い声が届く。拓真は顔を上げ、弱く息を吐いた。 「…後で話させて。ちゃんと」 その言葉だけ残して、歩き出した背中が夕日に溶けていく。 小さく痕を残す嫉妬の気配が、まだ腕の内側に残っていた。次に会うとき、何を言うべきなのか考えるほど、胸の奥が落ち着かなかった。

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小さな嫉妬が火種になる展開を追加して。

7

放課後の廊下は、人の気配が薄れていた。窓越しの陽が傾き、床の色が少しずつ冷えていく。 拓真と話す、と決めたはずなのに、足はどこにも向けなくなっていた。 階段を降りようとしたとき、ポケットの中で星のチャームが触れ合った。金具がかすかに鳴り、その音だけが妙に鮮明だった。 「…迷ってんの、あんた?」 振り返ると、理科室帰りらしい尚人が立っていた。普段は無頓着な彼が、私の表情をじっと見る。 「昼から、顔が固いよ。何かあった?」 「別に。大したことじゃ…ないよ」 言った瞬間、自分の声が薄く響いた。尚人は片眉を上げ、ためらいながら口を開いた。 「紫苑、泣いてたぞ。屋上で。…あいつ、嘘つけないタイプだろ」 胸の奥がざわついた。紫苑が泣く理由を、私はまだ全部知らない。 「でさ」 尚人は私のポケットをちらりと見た。 「その星、拓真に見せた方がいいんじゃね?隠すと、余計こじれんだろ」 返事が詰まった。言わないでほしい、と紫苑は言った。でも、拓真は「話させて」と言った。どちらを選んでも、誰かが傷つく気がした。 尚人は肩をすくめて歩き出す。 「どっち選んでも、気まずくはなる。でもさ、黙ってたら、多分もっと悪くなる」 残された廊下に、風のような静けさが戻る。 ポケットの星を押すと、金具の角が指にあたった。 痛みでも判断できない自分に、少しだけ息が詰まった。 このまま拓真に会いに行くべきか。それとも、まだ何か足りないのか。 階段の前で立ち止まったまま、答えは形にならず揺れていた。

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物語に最適な展開を自由に追加してください。

8

校舎裏に向かう廊下は、昼の名残りを少しだけ抱いていた。窓の外で風が枝を揺らす音が、やけに胸の奥に入り込んでくる。 階段を降り切ったところで、誰かの足音が近づいた。振り返ると、拓真が立っていた。肩で小さく息をしていて、探していたのが伝わる。 「…いなくて、焦った」 言葉は短いのに、張りつめていた。 私はそっと視線をそらし、ポケットに触れた。星の輪郭が指にあたる。言うべきか迷う気持ちが、まだ整理できていない。 「話、していい?」 拓真が一歩近づく。靴の擦れる音が近くなる。 「俺…紫苑のことも、お前のことも、ずっと中途半端だった。でも今日、見てて思ったんだよ。もう曖昧にすんのやめようって」 胸の奥がぎゅっと縮む。何が来るのか分かっていても、受け止める準備ができていない。 拓真は、手すりに触れるみたいに慎重に言葉を探した。 「…指輪、お前に渡したかったのは、本当。でもさ」 一度、呼吸が途切れた。 「俺がずっと気にしてたの、多分…お前が誰かに取られんのが嫌だったからだと思う」 耳の奥が熱くなる。返事を探す前に、拓真が続けた。 「好きとか、そんな一言で済む感じじゃないんだけど…でも、そういうことなんだと思う」 その瞬間、ポケットの星がわずかに鳴った。言えなかった言葉が、喉の奥でつかえる。 「…ごめん。いま言われても…返せない」 声が少し震えた。拓真が目を見開く。 「紫苑のこともあるし…私、自分の気持ち、まだ分かんない」 沈黙が落ちる。けれど責める色はなかった。拓真は、ゆっくり息を吐いた。 「待つよ。ちゃんと言えるまで」 その静けさが、かえって胸を揺らした。 歩き出す彼の背に手を伸ばしかけて、結局下ろす。星の金具は、まだ冷たいままだった。 返事を出せる日は、本当に来るんだろうかと考えながら、私はその場に立ち尽くした。

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思いがけない告白が二人の心を揺らす展開を。

9

校庭の端まで歩くと、風の温度が変わっていた。夕焼けが沈みかけて、影が長く伸びる。今日の終わりが近いのが、嫌でも分かった。 ベンチの前で足が止まる。紫苑がそこに座っていた。膝の上で手を握りしめ、指が白くなっている。私に気づくと、かすかに笑った。 「もうすぐ暗くなるね。…今日、終わっちゃう」 声は落ち着いているのに、目の奥だけが揺れていた。何を言えばいいのか分からなくて、私は星のチャームをそっと握った。 「拓真…何か言ったんでしょ」 紫苑が問いかける。視線は夕焼けのまま。 「…うん。でも、返事はしてない」 その言葉に、紫苑は短く息を吸った。肩がわずかに上下する。 「そっか。…ずるいよね、私」 唇を噛む仕草が、いつもより幼く見えた。 「最後くらい、ちゃんと届けばいいと思ってた。でもさ…待ってる時間の方が長かったの、私の方なのに」 胸が痛む。紫苑は笑おうとして、うまくいかず目を伏せた。 「でもね…今日で終わりにするって決めたの。誰が選ばれても、ちゃんと受け止めるつもりだった」 言い終えると、指先がかすかに震えた。 「紫苑……」 呼んだ瞬間、彼女は首を横に振った。 「言わなくていいよ。あんた、迷ってるの分かるし。だけど…」 顔を上げる。 「ちゃんと決めなよ。拓真も、私も、逃げ場所じゃないでしょ」 夕陽の残り光が、紫苑の横顔にかかった。強さと弱さが混ざった線が浮かぶ。 「日の落ちる前に、答え出しな。今日くらい、自分のために」 その言葉が胸の奥に刺さって、息が詰まった。 遠くで野球部の最後の声が響く。放課後の終わりも、今日の終わりも、近づいていた。 私は星を握り直した。 残された時間で、向き合うしかないと思った。

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まもなく日が暮れようとしている。残り時間は少ない。今日はっきりとさせなければ。みんなそう思ってる

10

校庭の風が、昼より少しだけ冷たくなっていた。西の空は赤から群青へ変わりつつあって、その境目が揺れている。私はベンチを離れ、ゆっくり校舎の方へ歩き出した。星のチャームがポケットで転がり、金具がかすかに触れ合う。その音が、今日だけの答えを急かしてくる。 昇降口に向かう途中、階段の影で誰かが動いた。拓真だった。息を詰めたような顔で、こちらを見ている。 「探してた」 その短い言葉が、胸の奥に落ちた。 私は立ち止まり、ポケットに指を入れて星をつまみ出した。夕闇に銀が淡く光る。拓真の目が、わずかに揺れた。 「これ…落としたんだよね」 手のひらに乗せて差し出す。 「返さなきゃって思ってた。でも…怖かった」 拓真が一歩近づき、星を見つめる。触れそうで触れない距離で止まった。 「なんで、怖ぇの?」 声は低くて、いつもの強がりが混じっていない。 答えを探して、喉が乾いた。 「これ返したら…三年前のままじゃいられなくなる気がして。誰かを傷つけるのも、自分が変わるのも、全部いやで…でも逃げても意味ないって、紫苑に言われた」 紫苑の名を出した瞬間、拓真の目が伏せられた。けれど、すぐこちらへ戻る。 「紫苑、泣いてたって聞いた」 「…うん。でもね、ちゃんと受け止めるって言ってた。だから…私も決める」 指先が震えた。星のチャームが小さく揺れる。 「私、今日ずっと迷ってた。でも、誰のためでもなくて…自分のために決めていいって言われたから」 深呼吸が胸の奥を少し整える。 「拓真」 名前を呼ぶだけで、視界がにじむ気がした。 「私、あんたの気持ち…受け取る。返事、するよ」 拓真は一瞬動けなかった。驚いたように瞬きをして、ゆっくり息を吐く。 「…ほんとに?」 その声があまりに弱くて、胸が締めつけられた。 私は手の中の星を見て、小さく笑った。 「これ、ずっと守っとくって言ったでしょ。三年前。あの時のままじゃないけど…あれが嘘じゃないって思いたいの」 拓真が星に触れる。指先が少し震えていた。 「嘘じゃねぇよ。だから…これも」 彼がバッグから小さな革袋を取り出し、私の手にそっと乗せた。 中で微かな音がした。三年前の星と似た、でも少し違う重み。 「開けなくていい。今日じゃなくていい。お前が決めたって言ってくれた、それで十分だから」 私は袋を握りしめた。布越しに伝わる冷たさが、逆に落ち着きをくれた。 「ねぇ、拓真」 言葉を探すように息を吸う。 「これから先、誰かに先越されるの、そんなに嫌?」 言った瞬間、拓真は照れ臭そうに顔をそらした。 「嫌に決まってんだろ。お前のこと、ずっと…気になりっぱなしだったんだから」 胸の奥で何かが跳ねて、息が止まった。 夕陽の最後の光が沈み、校庭に夜のはじまりが落ちる。私たちの影が重なり、ひとつの形になった。 「じゃあ…これからは、ちゃんと隣にいてよ」 声が震えても、拓真は笑った。 「当たり前だろ。逃がす気ねぇし」 風の音だけが、静かに二人を包んだ。 ポケットの中で星のチャームが触れ合い、微かな音を立てた。それは、今日たどり着いた答えをそっと肯定するようだった。 卒業の日に選んだこの気持ちが、きっと明日からの私を連れていく。 夜の匂いが満ちていく校庭で、私は初めてまっすぐに歩ける気がした。

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