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夕橙に揺れる影と栞 の表紙

夕橙に揺れる影と栞

よはく

すれ違い2025/12/30

1

あの日の風の匂いを、いまでも思い出すことがある。駅前のロータリーに沈む夕陽が、舗道の粒子を照らし返していた。春の始まりで、空は薄い橙に揺れていた。 「…また遅れたな」彼女は眉を寄せ、髪を耳にかけた。佐伯灯。表には出さないが、気を抜くと語尾が少し荒くなる。俺は鞄を握り直しつつ言った。「ごめん。電車が詰まっててさ」 灯は短く息を吐き、視線を外した。「別にいいけど。…今日、渡すって言ってたろ?」その声は冷たくはないのに、どこか距離があった。 ポケットから小さな紙袋を取り出す。入っているのは、古本屋で見つけた栞。細い銀の糸が光を拾って揺れた。「その、似合うかなって…思って」 灯は紙袋を受け取り、指先で栞を触れた。その動きがやけに慎重で、胸の奥が跳ねた気がする。「…ありがと」彼女はそれだけ言い、ほんのわずかに目を伏せた。 風が二人の間をすり抜け、灯の髪を乱した。手を伸ばせば整えられたのに、俺は動けなかった。触れていいのか、まだ分からなかった。 「帰るね」灯は歩き出した。夕陽に背を向けると、その影は長く伸びて、俺の足元に触れた。 呼び止めようとしたのに、声は出なかった。彼女が何を言いたかったのか、あのときの俺は気づけていなかった。 薄暗くなり始めた道で、栞の銀糸だけが遠くで微かに光った。あれが、すれ違いの始まりだったのかもしれない。

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印象的な書き出しで初めて。回顧録。

2

翌朝、校門の前に薄い霞がかかっていた。春の匂いがまだ冷たい空気に沈んでいる。灯はいつもの位置に立っていたが、手元の紙袋は見えなかった。 「昨日…ありがとな」俺が声をかけると、灯は一瞬まばたきし、髪を押さえた。「別に。…忘れ物しただけだし」語尾が少し硬くなる。何を忘れたのか聞こうとしたが、言葉が喉でほどけた。 灯は制服の袖をつまみながら、視線を校舎へ滑らせた。「その…栞、家に置いとくのも変だし。今朝カバンに入れようとしたらさ、うまく入らなくて」歯切れが悪い。誤魔化しているのは分かった。でも理由までは読めない。 「壊れたりしてない?」そう言うと、灯は小さく首を振った。「してない。…大事にしてるよ」その言い方が妙に慎重で、胸の奥がきゅっと縮むようだった。 校舎からチャイムが流れ、風がふっとふたりの間を割った。灯は歩き出しながら、振り返らずに言った。「放課後、ちょっと時間あんだけど…いや、いい。忘れて」 その言葉だけが置き去りになり、俺は返事のタイミングを逃した。風に攫われた彼女の背中が、どこか遠く感じた。 放課後、灯が何を言おうとしていたのか。それが気になって、授業の文字が霞んで見えた。

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物語に最適な展開を自由に追加してください。

3

放課後、昇りきれなかった陽が校舎の窓に溶けていた。廊下に長い影が伸び、埃が淡く漂っている。灯の姿を探しながら歩いていると、階段の踊り場で彼女が壁にもたれていた。肩にかかった髪が少し湿って見えた。 「…待ってたの?」思わず声が漏れた。 灯は眉を寄せ、視線を床へ落とした。「別に。帰ろうと思っただけだから」口調はそっけないのに、指先が袖をつまんでいる。 「今朝さ、何か言おうとしてたよね」 言った瞬間、灯の睫毛がわずかに揺れた。春の風が窓の隙間から入り、彼女のスカートを撫でていく。 「言ってないし」灯は階段の影に半歩下がった。「…昨日の栞、ありがと。それだけ」 「それだけで、放課後まで気にしてたの?」 灯の肩が小さく跳ねた。顔は見せないまま、「…うるさい」とかすれた声が返る。 俺は手すりに触れ、冷たさで息を整えた。「もしさ、何かあったなら言ってほしい。俺、たぶん気づけないから」 灯はゆっくり顔を上げた。光が横から差し込み、瞳の奥で細かい粒が揺れた。何か言いかけて、また飲み込むように唇を閉じる。 「…明日さ、ちょっと時間ある」 その声は、かすかに震えていた。 俺が返事をしようとした瞬間、階下から部活の掛け声が響き、灯はそちらへ視線をそらした。 「じゃ、帰る」 そう言って歩き出す影は、いつもより少し速かった。 追いかけようと足を出したが、一瞬ためらった。どこまで踏み込んでいいのか、まだ分からなかった。彼女の背中の輪郭が夕陽に溶け、言えなかった言葉だけが胸に残った。

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2人の関係は?

4

昇降口を出ると、夕陽が校庭の砂に淡い金色を散らしていた。風が運ぶ土の匂いが、どこか懐かしく胸にまとわりつく。灯は校門へ向かいながら、歩幅を少しだけ落としていた。追いつくと、彼女は目を合わせずに髪を耳へ寄せた。 「…明日のことだけど」 顔を伏せたまま、灯がつぶやく。 「予定、空いてるよ。言ってくれたら」 返すと、灯の指先がぴくっと動いた。「別に、大した…用じゃないし」語尾が沈む。何か言い足りないみたいで、目元が揺れている。 信号の前でふたりが並ぶ。赤に染まった舗道が、影をくっきり落とした。灯の影が俺の足元まで伸び、触れそうで触れない。 「灯、その…怒ってた?」 言うと、彼女は瞬きを重ね、小さく肩を縮めた。「怒ってない。…ただ、タイミング悪かっただけ」 それだけで終わらせようとした声だった。 でも風がひゅっと吹き抜け、灯の髪が頬にかかった。反射的に手が動き、指先がその一束に触れた。細い髪がやわらかく逃げ、体の奥で息が止まる。 灯は驚いたように目を開き、すぐに視線を落とした。「…触るなら、言えよ」 頬がわずかに赤い。叱っているようで、力が入っていない。 「ごめん。落ちてきてたから」 俺が手を引くと、灯は髪を押さえたまま小さく息を呑んだ。沈黙が流れ、風の粒だけが足元を回る。 信号が青に変わり、灯はゆっくり歩きだした。「明日さ…ちゃんと話すから」 その声は弱いけれど、どこか決意めいていた。 並んで歩く影が、少しだけ重なったまま伸びていく。彼女が何を伝えようとしているのか。その輪郭だけが、夕暮れの色の中で静かに浮かんでいた。

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二人の距離が縮まる胸キュンの瞬間を描写してください。

5

朝の光が校舎の壁を白く照らしていた。冷たい風が吹き抜けるたび、花びらが足元で揺れた。待ち合わせたわけでもないのに、灯は正門の脇に立っていた。カバンの端を指でつまみ、落ち着きなく揺らしている。 「…来たんだ」 灯は目を合わせず言った。声は普段より少しだけ低い。 「昨日、話すって言ってたろ」 返すと、彼女の肩がかすかに沈む。 灯は鞄の中を探り、ためらうように手を止めた。その仕草に胸がざわつく。朝の光が銀糸に反射して、細い光が彼女の指先に跳ねた。 「これ…さ」 灯は栞を出した。角が少し折れていた。 「家で落として。気づかなくて、踏んで…」 言葉が途中で細く切れる。 「壊れたわけじゃないよ」無理に笑おうとする気配が伝わる。 「でも…渡されたばっかで、こんな…」 栞を持つ灯の指が震えていた。言い訳を探すみたいに何度も瞬きをする。そのたび、瞳の奥で朝の光が揺れる。 「怒ってないよ」そう言うと、灯は顔を伏せたまま首を振った。 「怒ってなくてもさ…いやだろ、こういうの。私、ちゃんとできないんだよ。大事にしたいって思ってるのに、思ってるほど…できなくて」 声がかすれ、語尾がほどけた。風が吹き、灯の睫毛が震えた。涙ではないけれど、泣き出しそうな気配が空気に混じる。 俺は栞を受け取り、折れた角に指を触れた。ほんの少しの傷。でも灯が気にしているのは傷じゃなくて、そこにある自分の不器用さなんだと分かった。 「直せるよ。ほら、まだ光ってる」 言うと、灯は息をのみ、ゆっくりと顔を上げた。 その目に、言葉にならない何かが揺れていた。触れたら壊れそうで、けれど離れたくない温度だった。 始業のチャイムが遠くで鳴った。灯は袖をつまんだまま、小さく息を吐いた。 「放課後…少し時間くれる?」 その問いは、昨日までより一歩だけ近かった。

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読者の涙を誘うような、胸が締め付けられる瞬間を描写してください。

6

放課後の風は、昼より少しぬるかった。校舎の影が長く伸び、光の粒が廊下に漂っていた。灯は教室の前で待っていたが、顔は窓の外に向いていた。指先だけが落ち着かず揺れている。 「来たんだ」 その声は小さく、どこか慎重だった。 「時間あるって言ってたろ」 そう言うと、灯は一度だけ息を呑み、階段の方を見た。 「外、歩かない?」 歩幅は普段より少し早い。追いつくと、灯は袖をつまみながら言った。 「…さっきさ、先生に呼ばれて。帰るの遅くなるかもって思ってた」 その言い方が妙に急ぎ足で、胸がざわついた。 校舎を抜けると、春の光が砂を薄く照らしていた。灯は影を踏まないように歩きながら、ためらうように口を開く。 「栞のことだけじゃなくて…言いたいことあったのに、うまく言えなくてさ。誤解させてたら…嫌だから」 そこで言葉が途切れた。風がふっと吹き、灯の髪が頬をかすめる。掴みかけた言葉がまた逃げていく気配がした。 「誤解って、どんな?」 聞くと、灯の歩みが止まった。夕陽が横から差し込み、彼女の影が細く揺れる。 「…あとで話す。今は…まだ言えない」 視線は落ちているのに、袖を握る指だけ少し強くなった。 そのまま並んで歩き出すと、沈む陽が空気を淡い橙に染めていく。灯の横顔は言い足りない言葉を抱えたままで、その輪郭が光に溶けそうに見えた。 何を隠しているのか。踏み込んでいいのか。答えはまだ遠く、けれど手を伸ばせば触れられそうな場所にあった。

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物語に最適な展開を自由に追加してください。

7

校門を離れると、空気が少し湿っていた。夕暮れの光が雲に散り、淡い粒が道の上を漂っている。灯は歩きながら、時折うつむき、靴先で砂を払った。 「…今日さ、変だったよな。私」 ぽつりと言った声は、風にすぐ薄まった。 「そんなことないよ」 返すと、灯は首を振った。袖を握る指が落ち着かない。 「誤解ってさ…私じゃなくて。たぶん、あんたの方が…困るかも」 意味がつかめず、足が止まる。 灯は少し離れた位置に立ち、鞄の中を探った。取り出したのは、俺が渡したものとは違う栞だった。縁に細い黒い文字が滲んでいる。 「これ…図書委員の先輩から返された。昨日、あんたが図書室で聞かれてたって」 灯は視線を上げないまま続けた。 「『最近、誰かに栞あげた?』って。…なんで知ってんのかなって」 胸の奥で何かが軋む。昨日、司書の先輩に立ち話で聞かれたことが頭をよぎる。灯の名前は出していない。でも、察したのかもしれない。 灯はその栞を握りしめ、かすれた声で言った。 「私、あんたのこと…勝手に迷惑かけてるかもと思って。だから言いづらかった」 風が吹き、灯の髪が揺れた。目元に落ちていた影が、ゆっくり晴れていく。 「迷惑なんかじゃないよ」 そう言うと、灯は一瞬だけ顔を上げた。 その瞳の奥に、驚きと…言いかけた言葉の欠片が混ざっていた。 歩道の端に春の名残りの花びらが一枚落ち、風に押されてこちらへ寄ってきた。灯はその花びらを見つめ、わずかに息を吸う。 「じゃあ…ほんとに言っていいのかな。私が言いたかったこと」 その声はか細いのに、今までで一番まっすぐだった。

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予想だにしない展開に発展。意外性がありつつも、これまでの伏線や感情が腑に落ちる流れにして。

8

街灯の点きはじめた歩道に、薄い光の粒が漂っていた。灯は花びらを拾うでもなく見つめ、指先が震えていた。距離は半歩ほど。声をかければ触れられそうで、でもまだ踏み込めない隙間があった。 「言いたかったって…何のこと?」 聞くと、灯は小さく息をのみ、視線を外した。 「…こういうの、言うの苦手でさ。言ったら変に思われるかもって」 言葉を探すように、鞄の紐を何度も指で押したり離したりしている。 風が揺れ、彼女の髪が頬にかかる。反射的に手が伸び、落ちかけた束に触れた。柔らかい感触が指先にわずかに残る。 灯は驚いたように肩を震わせたが、今回は避けなかった。 「…あのさ」 顔は伏せたままなのに、声は俺の方へ寄ってきていた。 「最近さ、あんたと話す時…変なんだよ。うまく息できないっていうか…気がつくと、余計なこと考えてて」 そこで彼女は言葉を切り、首元を押さえた。体温が上がったのか、耳のあたりがほんのり赤い。 「だから誤解されたら困るって思ってたの。私が…勝手にそうなってるだけで、あんたには関係ないのに」 灯はようやく顔を上げた。街灯の光が瞳に入り、小さな粒がふるえるように揺れた。 「迷惑じゃないって言っただろ」 言うと、灯の喉がかすかに動いた。 「…ほんとに?」 疑うようで、でもすがるみたいな声だった。 俺は花びらを拾い、灯の掌の上にそっと置いた。 その指が、ためらいながら僕の指先に触れた瞬間、小さな震えが伝わった。 「ほんとだよ」 灯はその触れた部分を見つめ、息をひとつ吸い込んだ。 影が重なる距離で、何かを決めたように目を細める。 「じゃあ…続き、話してもいい?」 その問いは、逃げ場のないほど近く、かすかな熱を帯びていた。

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二人の距離が縮まる胸キュンの瞬間を描写してください。

9

灯は花びらを包む手を胸の前で止めたまま、呼吸を整えるように目を閉じた。街灯の白い粒が、彼女の横顔に淡く沈んでいく。 「…続きってさ」 声は震えていたが、逃げる気配はなかった。 「私、あんたといる時…余計なこと考えてるだけじゃなくて。勝手に期待して…それで怖くなるんだ」 言い終えると、灯は指先をきゅっと握りしめた。花びらが少し折れ、薄い影が掌に落ちた。 「もし違ってたら、笑われるかもって…そんなの考えてばっかでさ。だから誤解とか、迷惑とか…変なことばっか言ってた」 風がふっと吹き、灯の前髪が揺れて頬にかかった。 彼女は迷った末に、そっと俺のシャツの端をつまんだ。ほんの少しだけ。 「…あんたはさ。私のこと、どう見てんの?」 言った瞬間、灯は顔を上げた。逃げ道を塞ぐような、でも不安の影を残した目だった。 返事を探す言葉が胸の奥で絡まる。灯はその沈黙を勘違いしたのか、つまんでいた指を離そうとした。 「やっぱり…聞かなきゃよかったかも。ごめ——」 離れかけた指に、そっと触れる。 灯の動きが止まり、目がわずかに揺れた。 「違う。考えてたんだ」 言うと、灯の喉が小さく動いた。 「灯の気持ち、変だなんて思わないよ」 灯の指が、そっと戻ってきた。触れた部分がほんのり熱い。 街灯の粒がふたりの影を重ねていく。 その重なりの中で、言えずにいた言葉が喉元まで来ていた——が、まだ形にならない。 灯はその様子を見つめ、かすかに息を吐いた。 「…そっか。じゃあさ」 彼女は袖を指で押さえ、ゆっくりと続けた。 「あんたの答え…明日、ちゃんと聞いてもいい?」 震えの奥に、微かな期待が滲んでいた。 その期待が、夜の光の中でほのかにきらめいていた。

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一気に進めて

10

朝の空気は少し冷えていたが、陽は確かに強くなっていた。校門の前に立つ灯の髪に、光が細い粒となって宿っている。袖をつまむ指が、いつもより長く震えていた。 「…来たんだ」 灯は視線を落としたまま言った。声にかすかな迷いが混じる。 「言うって言っただろ。答え、聞くって」 そう返すと、灯の肩が小さく揺れた。 しばらく沈黙が流れた。校庭の砂が風に押され、足元に寄ってくる。そのざらつく音が、ふたりの間に溶けていく。 灯はゆっくり鞄を開け、折れた角の栞を取り出した。銀糸が陽を受けてふわり光り、かすかな影を彼女の手に落とした。 「これさ…昨日、ずっと見てた。傷んでるのに、光るんだよね。変だよな」 「変じゃないよ」 言うと、灯はまばたきを重ねた。 「私さ、こういうの…ずっと苦手で。期待して、怖くなって、言いかけて逃げて…そればっかで」 彼女は栞を胸元に寄せた。指がぎゅっと紙を押し、銀糸がかすかに揺れた。 「でも、昨日…あんたが触れてきたとき。逃げなくてもいいって、少しだけ思えたんだ。…ほんの少し」 肩越しに朝の光が差し込み、灯の瞳に細い粒が散った。 「だから…聞くよ。あんたは、私をどう見てんの?」 その問いは、今まででいちばんまっすぐだった。 喉の奥が熱くなる。何度も言いそびれた言葉が、ようやく形を持ち始める。 「灯のこと…最初はただ、気になるくらいだった。でも、気づいたら目で追ってた。言葉逃すと悔しくなった。触れたとき…手放したくないって思った」 言うと、灯が小さく息を呑んだ。風が彼女の髪を揺らし、その影が俺の胸元に落ちる。 「だから…もし灯が、俺のことを…」 言い終える前に、灯がそっと近づいた。つまんだままの袖が、かすかに引かれる。 「…関係あるよ。あんたの言葉、ちゃんと」 灯は顔を寄せ、ほんの少し笑った。照れを隠そうとしているみたいに、視線は胸元へ落ちている。 「…嬉しいって思った。聞けて…よかった」 栞の銀糸が風に揺れ、陽の粒がふたりの影の境目に落ちた。触れそうで触れない距離は、もう前みたいなすれ違いではなかった。 「これさ…直す?」 俺が言うと、灯は栞を見つめて小さく首を振った。 「…このままでいい。傷ついてても、光るんだし」 照れた声の奥に、微かな強さが滲んでいた。 風がまた吹き、灯の前髪が揺れた。今度は迷わず手を伸ばした。触れた束は少しあたたかかった。 灯は目を細め、わずかに頬を赤くしたまま言った。 「学校、行こ。…一緒に」 並んで歩き出す影が、朝の光の中でゆっくり重なっていく。 その重なりを踏みしめるたび、もうあの日みたいに取りこぼすものはないと分かった。 銀糸は、折れた角のそばでまだ光っていた。 まるで、すれ違った日々の先にある答えを、そっと示すように。

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